会長 中村春基
去る5月25日に開催された2019年度定時社員総会、同日の臨時理事会において会長に再選された。公約に掲げた、地域包括ケアシステムに資する作業療法の提供、生活行為向上マネジメント(MTDLP)の更なる普及、社会のニーズに迅速、的確且つ柔軟に対応できる組織改革と運営等に鋭意取り組んでいく所存である。
さて、作業療法の現状については、様々な場で、様々な方から、様々なご意見をお聞きする機会がある。MTDLP に基づく作業療法の取り組みをぜひ全国の作業療法士に広めてほしいというご意見がある一方、作業療法士の業務が心身機能の訓練に偏っているのではないか、地域包括ケアシステムに資する作業療法の実践が量・質ともに不十分である、などの指摘も頂戴している。
これらの指摘に対し、作業療法士としてどのように応えるべきだろうか。関連職種と密接に連携・協業しながらも、作業療法士ならではの視点と方法によって成果を上げ、「人々の健康と幸福を促進するために」着実に貢献している姿を示すことが作業療法士という専門職の責任を果たすことになると思う。
協会は MTDLP を開発し、その普及と発展に努めてきた。MTDLP は作業療法のあるべき一つの姿を典型的に表し、作業療法士の思考過程を客観的に示すことのできる有用な道具立てとなっている。この MTDLP 等を通して作業療法をわかりやすく利用者・多職種に示す多くの実践がいま求められているのである。
また、協会は昨年度、33年ぶりに作業療法の定義を改定した。作業療法の本質は不変だが、社会構造の変化に伴い、作業療法士に求められる役割・機能も多様化するなか、6年の歳月をかけ新たな定義が誕生した。この定義を日頃の実践につなげる必要性もある。
教育制度においても、昨年10月に改正された指定規則および指導ガイドラインは「地域包括ケアシステム」に資する「質の高い理学療法士及び作業療法士を育成する」ことを主眼とし、多職種連携や利用者主体の取り組みなども強調している。治す治療から治し支える医療への変革のなかで、作業療法士は「活動」と「参加」、地域包括ケアシステムに資する作業療法の実践を積み重ねていきたい。
作業療法士が強調している「利用者主体」、「健康と幸福」、「生活支援」などの言葉は今やどの職種も掲げているもので共通概念となっている。そのなかで作業療法の専門性を利用者、他職種・国民にその存在と利用価値を認識してもらうことが、いま最も重要な課題である。作業療法の役割と責務は、法律、定義、MTDLP、教育制度、医療・介護報酬等において明確に示されている。
全国で医療・介護に従事する作業療法士は協会員だけでも約5万人に及ぶが、その一人ひとりが「活動」と「参加」に資する作業療法を実践することにより、その何倍もの方の主体的で豊かな生活の実現につながるはずである。今こそ基本に立ち返り、MTDLP を大いに活用しながら、地域包括ケアシステムに資する作業療法を実践し、その効果を示していくことが何よりも求められている。